ニートな生活 B



  吉積裁判官も、笑っている。
吉積裁判官「被告、何か、言いたいことありますか?」
  秀夫、被告と呼ばれ、驚く。
  そして、首を、左右に振る。
         (WIPE)
5 裁判所内民事訴訟事務室
  多くの机には、書類が、山積みになっている。
  誰も、いない。
  電話のベルが、なっている。
秀夫(M)「高等裁判所が、控訴で、最高裁判所が、
 上告か」
  廊下で、男のどなり声が、する。
  隣部屋から香川女性職員が、現れる。
  眼鏡を、している。
香川女性職員「何か?」
秀夫(M)「この人も、心の中では、笑っているみたいだ」
秀夫「郵便切手を、払い過ぎてるって、言われたんです。」
香川女性職員「はいはい。返却ね。512号法廷?」
  廊下で、男の大声。
「えらそうにするな」
  男子職員が、隣部屋から、走り出てきて、
  廊下を、走っていく。
  秀夫、廊下を、覗くが、
  誰も、いない。
  男の大声だけが、聞こえる。
  香川女性職員、束になった郵便切手を、
  受付机の上に、置く。
香川女性職員「こちらに、署名、お願いします」
  秀夫、署名しようとすると、
  また、大声が、聞こえてくる。
香川女性職員「通名で、いいですよ」
  秀夫は、李 秀夫と、署名する。
香川女性職員「ご苦労様」

6 裁判所内廊下
  大声の男を、囲んで、警備員や男性職員たちが、歩いてくる。  

7 裁判所内廊下
 「なめんなよ」
  怒鳴っている背広男の一群が、廊下を曲がっていく。
  誰もいない廊下を、秀夫が、歩いていく。
  遠くで、怒鳴っている背広男の声が、聞こえる。
  秀夫は、後ろが、気になるが、
  振り向かずに、歩いていく。
  吉積裁判官と加藤書記官と大山弁護士が、
  去っていく秀夫を、見ている。
8 裁判所裏玄関
  雨が、降っている。
女1「すごい雨」
女2「夕立にね。すぐ、やむわよ」
女1「ちょっと、待ってましょう」
  秀夫、傘ささずに、裏玄関から、中庭に、出て行く。
9 御堂筋
  魚眼レンズの御堂筋。
  雨。
  秀夫、横断歩道を、渡っている。
10 歩道橋
  雨。
  秀夫、歩道橋を、登って、歩いていく。
11 オフィスビル
  雨。
  車と人の混雑。
12 電車ガード下
  雨。
  秀夫、ガード下、歩いていく。
13 地下街
  秀夫、歩いていく。
14 エスカレーター
  秀夫、上がっていくエスカレーターを、
  登っていく。
15 プラットフォーム
  秀夫、電車に乗り込む。
  電車が、駅から出て行く。
16 電車
  秀夫、電車内、すいているのに、すわらず、
  ドア近くに立って、雨が、まだ、降っている外を、見ている。
17 電車
  電車が、川を、越えていく。
(WIPE)  
  

18 家庭裁判所
  待っている人が、多い。
  秀夫が、廊下にある机で、必死に、
  書類を、書いている。
  調停書。
 「嫡子面談」
慶夫(N)「秀夫は、がんばった。
 こんなことで、家に帰って、泣き寝入りは、
 しませんでした。したくありませんでした。
 家庭裁判所で、妹たちの面談調停を、
 起こしました。
 ところが、ここでも、
 裁判所は、父と娘を、引き裂こうとするのでした」
19 家庭裁判所内601号室
 山田調停員(男)と林調停員(女)が、座っている。
 向かって、秀夫が、座っている。
山田調停員「娘さんにも、会う、会わないの権利が、
 ありますよね」
林調停員「別に、会わなくてもいいんじゃないの」
山田調停員「もしね、娘さんが、会いたくないと言ったら、
 どうします?会えないでしょう。15歳と12歳。
 かわいいのは、10歳まででね。中学、高校なったら、
 学校にこやんていて。言うよ」
林調停員「そうそう」
山田調停員「前の奥さん。うん。会わしてもいい。
 言うてはるけども、子供が、会いたくない、
 言ってたら、どうしようもないものね。
 そのあたり、どう考えているかよね」
林調停員「考えてない?考えてるでしょ。
 会いたいだけよね。会いに行ったらええやんか」
山田調停員「それが、一番やねん。
 何も、家庭裁判所で、調停なんかすることないよ。
 行ったり来たりしたらええやんか。
 こういうことになったけれど、
 子供のためや、前向きに、生きていったらええねん。
 私たちは、それを、一番望んでるんよ」
林調停員「そうなのよね。子供のことを、
 まず、考えてよね」
山田調停員「それでも、私が、調停に、
 入らなあかんのかなあ」
林調停員「たいへんなことなのよ」   

秀夫「調停、お願いします」
林調停員「ホホホ、がんこなところあるのね」
山田調停員「いじわるしてると、勘違いしないでね。
 そう。あなたが、ちゃんと、生活費を、
 入れていれば、こういう風にならなかった。
 違う?」
林調停員「どう?」
山田調停員「歩合制で、だんだんと、給料が、
 減っていった。家も、売った。
 お母さんと奥さんの仲も、おかしくなった。
 体の調子もおかしくなった。
 なんで、結婚したん?」
林調停員「好きやったんやね」
山田調停員「やっぱ、好きやねんて歌もあるけど、
 二人が、力合わせて、子供を、
 養っていくのが、一番や」
林調停員「そう言っても、こうなっったわけだから、
 しかたないわよね」
山田調停員「子供を育てるって、たいへんなことなのよ。
 わかる?」
林調停員「そんなこと、誰だってわかるわ」
 山田調停員、机をたたく。
山田調停員「(大声で)本当に、わかってるのか?」
林調停員「ああ、びっくりした」
山田調停員「わかってると思うけれど、
 今更言うても、仕方ないけど、
 いろんなことあったと思うけど、
 子供のことを、考えて、我慢する。
 我慢する時は、我慢する。父親なんやから」
林調停員「我慢できんかってんなあ。奥さんがか」
山田調停員「調停するの?するんやね。間違いない?
 あとで、取りやめると言っても、裁判といっしょの効力もつから、
 取り消されへんよ。いいの?どう?」
林調停員「いいんやね」
山田調停員「どう?調停しましょか」
林調停員「変わらないみたいやし。時間かかるわよ」
山田調停員「そう。右から左みたいに、すぐ、決定しない」

林調停員「時間かかるわよ。それでも、
 会いたいのね」
 秀夫、林調停員を、口をへの字にして、
 見ている。
慶夫(N)「見えない糸で、結ばれた親子の縁。
 復活です」
20 秀夫の家
 二戸一の20坪のの家。ピンポン。チャイムの音。
 玄関、開く。
可奈「こんにちわ」
早紀「こんにちわ」
秀夫「いらっしゃい。お帰り」
 秀夫の長女、早紀(14)と、次女、可奈(12)が、
 入ってくる。

勝子おばあさん「(テレビ見ながら)よく来たね。はいり」
  早紀と可奈、奥も部屋のもう一台のテレビの前に、
  すわる。
  慶夫、テレビ、見ていたが、立ち上がって、
  二階へ、行く。
  秀夫、折りたたみ机を、持って来る。
秀夫「二階にも、テレビあんねん。
 さあ、勉強しようか」
早紀「誰が、勉強するの?」
秀夫「早紀」
 可奈、勝子おばあさんの部屋へ、行く。
早紀「なんでえ、勉強しなあかんのん?」
秀夫「来年の春、高校受験やろう。あと、半年や」
早紀「ええ」
秀夫「参考書あるよ」
早紀「もう」
秀夫「日本人は、勉強してない、勉強してない、
 言うても、塾行ったり、家庭教師雇うて、
 勉強してんねん。(指さしながら)友達も勉強してるで」
早紀「(大声で)誰が勉強してるか」
秀夫「友達、みんな、あほか」
  早紀、秀夫を、横目で、にらみつける。
秀夫「誰も、勉強教えてくれへんやろう」
早紀「いらん」
秀夫「教えたるって」
早紀「いらん」
秀夫「自分でするか?」
早紀「どれ?」
秀夫「どうせ、でけへんやろ。答え見てせえ」
早紀「もう、自分でする」
秀夫「できるんか?1年の問題」
 早紀、秀夫を、見て、首振る。
早紀「だまって」

  可奈が、通る。
秀夫「ジュース?」
可奈「トイレ」
21 秀夫の家 トイレ
  秀夫と可奈が、トイレの鏡に、
  映っている。
秀夫「この家には、お化けが、いてるねん。
 (幽霊の真似しながら)夜中、水道が、
 キキキって、鳴くんやで。こわいでえ。
 おとうさんが、おしり、拭いたろ」
可奈「いい」
秀夫「小学生やろ」
可奈「もれる」
秀夫「自分で、拭けるんか?」
可奈「ふける」
秀夫「よかったね」
可奈「出て」
22 秀夫の家 廊下
  トイレのドアを、少し、開けて、
  可奈が、覗いている。
  可奈、出てきて、トイレのドアを、
  閉め、急いで、居間に入り、閉める。
  廊下の壁に、隠れていた秀夫。
秀夫「誰も、親の気持ち、
 わかってくれへんなあ」
  秀夫、居間に入ろうとする。
  キキキと、水道の鳴く音が、する。
  ちょっと、驚いて、入る。
誰もいない廊下。
  
22 台所
  パソコン画面。
  風水羅盤。
秀夫「ラッキーカラーは、(慶夫に)青色。
 黄色(早紀横向く)。(可奈に)白色。
 (画面指さしながら)家の反対は、解。解体の解。
 引越しの時は、今、住んでいるところを、解にして、
 その反対の家の方向に、引っ越す。
 高校は、どこの行ったらいいか?
 永遠の絆は、恒。
 仲良く、発展するなら、泰。
 臨みを、かなえたいなら、臨。
 豊かになりたいなら、豊。
 この方向の高校に、行けばいい」
  早紀、パソコン画面の前に、すわって、
  黙って、聞いている。
  慶夫も、見ている。
可奈「どっから?」
秀夫「自分が、今、住んでる家から」
  風水羅盤と地図を、画面上で、重ね合わせる。
秀夫「弘子の団地が、ここやから、恒、泰、臨、豊。
 豊の方向に、北淀高校。あった。
 ここの高校、行け」
早紀「先生が、決めるん違うの?」
秀夫「自分で、決めるんや。誰も、言うてくれへんよ。
 自分で、決めるんや」
早紀「お母さんに、聞いてみる」
       
23 玄関
秀夫「(金魚見ながら)東南に金魚。常識やでえ」
勝子おばあさん「帰るの?」
早紀「うん」
  早紀と可奈が、靴を、履いている。
勝子おばあさん「持った?」
可奈「うん」
  早紀が、パソコン、可奈が、ファミコンを、
  持っている。
早紀「それじゃ」
  早紀、外に出る。
可奈「さようなら」
勝子おばあさん「また、おいでなあ」
早紀「うん、来月」
24 玄関前
  勝子おばあさんが、パソコンを持った早紀と、
  ファミコンを持った可奈と、秀夫を、
  見送っている。
  秀夫、家に入るよう、合図する。
  早紀と可奈、振り返らず、そのまま、歩いていく。
  早紀と可奈、四つ角を、曲がる。
  秀夫、追いかける。
25 街路
  早紀と可奈、どんどん先を、歩いていく。
  秀夫、四つ角で、追いつくが、
  停まって、手を振る。
  早紀と可奈、チラッと、手を振っている秀夫を、
  見るが、そのまま、どんどん、歩いて行く。
  秀夫も、曲がって歩いていく。
26 私鉄駅
  改札口で、切符を、買っている早紀と可奈。
27 私鉄駅 階段
  早紀と可奈が、階段を、登って行く。
28 私鉄駅 プラットフォーム
  プラットフォームの鏡と、にらめっこしている可奈。 
  電車入ってくる。
早紀「可奈」
  早紀と可奈、電車に、乗る。

29 電車の中
 黄色い帽子の幼稚園児で、いっぱい。
 早紀と可奈が、キョロキョロしている。
 幼稚園児が、ぶつかってくる。
 その一人が、可奈の持っているファミコンを、
 引っ張って、取ろうとする。
可奈「あっ」
 ファミコンの箱のひもが、ほどける。
 幼稚園児男子が、箱を、開く。
幼稚園児男子「やっぱり、ロクヨンや。ふるー」
可奈「え、え、え」
 笑っている。
車掌のアナウンス「次は、上新庄駅上新庄駅
早紀「可奈、降りるよ」
 ドアの方に、行く。
可奈「待って」
 幼稚園男子から、ファミコン受け取る。
 ドア開いて、早紀、降りる。
 可奈も、ファミコン抱えながら、降りる。
可奈「待って」
 早紀の後を、追う。
30 改札口
 早紀、出てくる。
可奈「待って」
31 街路1
 可奈が、早紀の後を、追いかける。
32 街路2
 可奈が、早紀の後を、追いかける。
33 街路3
 可奈が、早紀の後を、追いかける。
34 市営団地前
 早紀、足早に歩いていく。
 可奈、走ってついていく。
35 市営団地1階
 廊下。
 早紀、走る。
可奈「待って」
 可奈も、走る。
 早紀、ドア開けて、入る。
 ドアが、中から、開く。
 開いたドアに、可奈、入り込む。
 ドア、閉まる。 
   
36 秀夫の家 台所の窓(夕暮れ)
  台所の窓から、中を、覗く。
  秀夫と慶夫が、
  夕食を、食べている。
37 台所
  勝子おばあさんが、廊下から、
  歩いてくる。
勝子おばあさん「さあ、私も、ご飯食べよ」
秀夫「どうぞ」
  秀夫、勝子おばあさんのコップに、
  お茶を、そそぐ。
  秀夫、箸で、にんにくを、つまみながら、
秀夫「なんで、朝、昼、晩、にんにくばっかし入れるんや。
 見てみいなあ、これ。塩だらけ。完全犯罪や。
 (慶夫に向かって)こうやって、人殺すんや。
 お・そ・ろ・し・い」
  慶夫、気にせず、黙々と、食べている。
勝子おばあさん「なに、言うてんの、子供の前で。
 変なこと、言わんとき。働きもせんと」
秀夫「なにが、働きもせんとや。今まで、
 さんざん、働いてきたやんけ。トラックの運転手に、
 タクシーの運転手。頭は、真っ白、歯は、ガタガタ。
 直腸癌で、入院。入院代、俺が、払ったやないか」
勝子おばあさん「そやなあ。なんで、ご飯食べてんや?」
秀夫「箸でや」
 慶夫、ニヤリとする。
勝子おばあさん「誰が、このおかず、買ってきたんや?」
秀夫「おれが、買ってきたんや」
勝子おばあさん「何、言うてんの」
秀夫「冗談わかれへんな」
勝子おばあさん「毎月、お金、持ってこんかいな。
 経済なんにもわかれへん」
秀夫「金属バット、持ってこようか。出刃包丁も、あるんやで」
勝子おばあさん「いいかげんにしい」
秀夫「本当に、あるんやで」
  秀夫、玄関に、行って、折れた曲がった金属バットを持ってくる。
  そして、流し台から、錆びだらけ出刃包丁を、引き抜く。
  秀夫、右手に、錆びだらけの出刃包丁、
  左手に、折れ曲がった金属バットを、
  勝子おばあさんに向かって、振りかざす。
秀夫「あんねんぞ」
勝子おばあさん「それ、捨てなあかんわ」
秀夫「砥いだら、まだ、使えるで」
勝子おばあさん「先、ご飯食べ」
秀夫「明日、職安行ってみる」
勝子おばあさん「大きな会社、行かなあかんで」
  秀夫、折れ曲がった金属バットを、
  もう一度、持って、天井を、突く。ドン。
勝子おばあさん「もう、いい」
  居間で、慶夫が、テレビ、見ている。
  
38 公共職業安定所ハローワーク
  秀夫の隣の男が、パソコン画面を、
  ペンシルで、速く、何度も、
  突っついている。
  それを、真似して、秀夫も、
  一生懸命、パソコン画面を、
  ペンシルで、突っついている。
  反対隣の女二人が、不思議そうに、
  眺めている。
  秀夫、パソコン画面、見ないで、
  ただ、ペンシルで、速く、突っついている。
  ペンシルを、上に、投げて、隣の男の前で、
  捕まえる。
秀夫「ナイスキャッチ」
  反対隣の女二人が、クスクスと笑っている。
  秀夫も、笑っている。 

39 公共職業安定所・受付デスク
  頭髪が、黒色に染まっている秀夫が、
  座っている。
職業安定所職員「IT産業、ご希望ですか?
 (訝しげに)パソコンが、できるということですか?」
秀夫「(偉そうに)そうです」
            (WIPE)
40 IT会社
IT会社職員(男)「2週間後に、
 ご連絡させていただきます」
            (WIPE)
41 マンション管理会社
マンション管理会社職員(男)「応募者多数のため、
 2週間後に、ご連絡させていただきます」
            (WIPE)
42 トラック会社
トラック会社職員(男)「(束になった履歴書を、机にドンと置いて)
 これだけあるんです。選考させてもらいまして、
 2週間後に、連絡させてもらいます」
            (WIPE)
43 港湾作業員請負会社
請負会社職員(男)「力ありそうだね。若い。若い。
 2週間後に、連絡するから」
            (WIPE)
44 集金会社
集金会社職員(男)「集金は、たいへんですよ。わかるでしょう。
 2週間後に、ご連絡さしあげます。はい」
            (WIPE) 
45 化粧会社
化粧会社職員(女)「化粧品を、販売されたこと、ございます?
 やる気だけでも、難しいところございますけれど。がんばられる?
 どうしても?それでしたら、
 再度、選考の上、2週間後に、ご連絡さしあげます。
 それで、よろしいですか?」
            (WIPE)
46 コンビニ店員派遣会社
コンビニ店員派遣会社職員(男)「ありがとうございます」
秀夫(N)「ありがとうございます」
コンビニ店員派遣会社職員(男)「ありがとうございます」
秀夫(N)「ありがとうございます」
コンビニ店員派遣会社職員(男)「もっと、大きな声で」
秀夫(N)「ありがとうございます」
コンビニ店員派遣会社職員(男)「ちょっと、大きすぎ。
 2週間後に、連絡さしあげます」
            (WIPE)
47 キャンパス・クラブ
キャンパス・クラブ職員(若い男)「ウェイター?
 皿洗いじゃない?昼間、家居てる?おれ?店長。
 2週間後、連絡入れる」
            (WIPE)
48 鉄工所
鉄工所職員(男)「うちには、どうかなあ。
 ほか、もっと、あるんじゃないの。うん」
            (WIPE)
49 野菜栽培・ビニールハウス
野菜栽培の男「若くて、長続きする人が、いいんだけれど」
            (WIPE)
50 足組取つ付け会社(ビルの屋上組み立て中)
足組取り付け会社職員(男)「だめ。だめ。足が、震えてる。足が。
 やっべいな。こりゃ」
            (WIPE)
51 パチンコ屋
パチンコ屋店長「募集は、夫婦住み込みなんだけど」
秀夫(N)「キツー」
パチンコ屋店長「なんか、言った?」
            (WIPE)  
52 ラーメン屋
ラーメン屋店主「50?若いね。時給安いよ。
 もっと、いいとこ、あるんじゃない?」
            (WIPE)  
 
53 株式教室
  秀夫の頭髪が、金髪に、染まっている。
株式教室講師(女)「株主資本利益率、Return on Equity、
 略して、ROEが、20%以上。
 株価収益率、 Price Earning Ratio、
 略して、PERが、10倍以下。
 株価純資産倍率、Price Book value Ratio、
 略して、PBRが、1倍以下。
 これが、世界で2番目の金持ち、
 ウォーレン・バフェットの方法で、あります。
 一度、買ったら売らない。
 買って、買って、買って、売らない。
 じっと、持っておく。
 1000万円を、30年間で、なんと、
 2兆円にしたウォーレン・バフェットの方法、
 あなた、できますか?」
  質問された秀夫。
鼻の穴に、鉛筆を、突っ込んで、
  ただ、株式教室講師の顔を、仰ぎ見ている。
               (WIPE)
54 為替セミナー
  金髪の秀夫が、パソコンの前に、座っている。
  パソコン画面。
  EXCELの自動マクロが、唸ってるように、
  勝手に、動いている。

  パソコン画面に、USDJPYやEURJPYやGBPJPYが、
  表示される。
為替セミナー講師(男)「世界の金融市場は、
 一日、150兆円ものお金が、取引されています。
 為替は、主に、ドル・円、ユーロ・円、ユーロ・ドル、
 ポンド・円、ポンド・ドルが、ニューヨーク、
 ロンドン、東京を中心に、売買されています。
 1992年ジョージ・ソロスさんが、
 ポンド売りで、イングランド銀行に、勝って、
 3000億円以上もの大金を、1日で、手に入れました。
 私の推察では、その日、
 ジョージ・ソロスさんのカバラ、占いですね。
 そのカバラが、1の日だったと、思われます。
 ハハハ、私の推察です。
 もし、短期売買の時は、カバラ1の日に、
 されては、いかがでしょうか」
受講者(N)「バカラですか?」
為替セミナー講師「バカラじゃない。
 (大声で)バカラは、バクチでしょう。
 カバラカバラは、占い。生年月日と、今日の日を、
 足していくんです」
  秀夫、教室の天井を這っている蜘蛛を、
  ずっと、見ている。
55 ホテル玄関
  秀夫が、ドアボーイに、促されて、
  回転ドアから、ホテル内に、
  入っていく。
55 ホテル内フロア
  背広の秀夫が、フロア内を、会社社長らしく、
  ゆっくり歩く。
 最敬礼、される。
56 ホテル2階フロア
  壁に、催し物の案内が、貼ってある。
 「経営戦略M%A企業買収セミナー」
  
57 ホテル2階M&A催し会場
  満場の拍手。
  その中を、秀夫が、歩いていく。
  スタンディングオベーション
  演壇に立って、挨拶する秀夫。
秀夫「株式100分割もいいでしょう。
 シナジー効果で、メディアを、
 使って、コマーシャルするのもいいでしょう。
 営業マンが、全国に、たくさんいる。
 新聞に一面広告を、打っている。
 しかし、しかし、会社が、大きくなればなるほど、
 チャンスを、逃してしまうんです。
 小さなところから、未来が、
 始まるんです。
 とにかく、トップに、なってください。
 小さなところから、トップに、
 なってください。
 それが、新しい未来の顧客のマインドを、
 つかむんです」
  またもや、満場の拍手。
58 海水浴場
  象に、股がっている秀夫。
海で、浮き輪に、乗っている。
  砂浜で、ビキニ女性たちの撮影会が、
  行われている。
  鼻に鼻紙を押し込んでいる秀夫が、
  ビキニ女性たちに、囲まれている。
59 大阪証券取引所
  床一面、株券の束。
  その上で、仁王立ちの秀夫が、
  天井を、見ている。
  蜘蛛が、這っている。
60 大阪市東淀川区役所地域保健福祉課生活環境担当
生活環境担当「何はともかく、ハローワークで、
 一度、聞いてもらえますか」

61 公共職業安定所ハローワーク
職業安定所職員「職業訓練パソコン経理事務課を、
 受けられるんですね」
秀夫「はい」
  秀夫、珍しく、いつも以上に、礼儀正しい。
職業安定所職員「簿記3級の資格も、ない。会社で、経理の経験も、
 ない。そろばんも、したことがない。
 どうして、経理職業訓練を、受けようと、
 思われたんですか?」
秀夫「会社法改正で、一人で、株式会社が、
 作れるようになりましたんで、
 新しいことに、チャレンジする必要性を、感じ、
 まずは、経理のことを、学習したいと思った次第です」
職業安定所職員「(上目で疑いながら)ここ、ハンコ押してないよ」
秀夫「(かしこまって)はい、どちらでしょうか」   
62 秀夫の家(夕方)
秀夫「ただいま」
明美姉さん「お帰り」
秀夫「いらっしゃい」
明美姉さん「お坊ちゃまのお帰り」
勝子おばあさん「決まった?」
秀夫「明日から、経理の学校」
明美姉さん「体、大丈夫?」
秀夫「半年一回の検査だけ」
明美姉さん「よかったやん。一時は、どうなるか。
 心配したええ。たいへんやったなあ」
勝子おばあさん「裁判も終わったし」
明美姉さん「みんな、忘れて、新しい人生歩みい。
 ところで、アパート、一度、見せてほしいわ」
  秀夫、奥の台所で、ピーナッツを、上に投げて、
  口の中に、受けている。
  2回、3回とする。
明美姉さん「うまいな。私も、さして」
  明美姉さんも、秀夫からピーナッツを、もらって、
  上に投げて、口の中に、受けようとするが、
  なかなか、入らない。
明美姉さん「なかなか、難しいなあ。お母さんも、してみる?」
勝子おばあさん「ええ、硬い」

明美姉さん「連帯保証人って、何やのん?
 前、言うてたけど」
秀夫「知らんの?連帯保証人。お金、借りた人間の代わりに、
 お金、払うこと。就職するのも、保証人いるし、
 アパート、借りるにも、保証人いるんやでえ。
 もうちょっと、勉強しなあかんわ」
 明美姉さん、突然、大声で、怒鳴りつける。
明美姉さん「(一喝)ばかにするのも、いいかげんにしいや。
 あんたに、言われたないわ。何、言うてんの。偉そうに。
 黙ってたら、ええかげんにしいや。ぬけぬけと。
 もうちょっと、ましな人間なると、思うたけどな。
 けったくそわる。うち、帰るわ。おかあさん」
 秀夫、目丸くして、立ちすくむ。
勝子おばあさん「ゆっくり、したらいいのに」
明美姉さん「帰る。また、出直してくるわ」
勝子おばあさん「遠いところから、来てるのになあ」
明美姉さん「うん、ありがとう。また、来る」
勝子おばあさん「ほんまに」
明美姉さん「行こう。ちょっと、コーヒーでも、飲もう」
勝子おばあさん「行こう。(秀夫に)言うてええことと、
 悪いことあるやろ。ええかげんにしいや」
 明美姉さんと勝子おばあさん、玄関から、
 外に、出る。
 一人、部屋に、残った秀夫。
 空にピーナッツの袋を、膨らます。
 袋を、手で、たたく。
 パーン。
 大きな音を、たてて、袋、割れる。
慶夫が、2階から、階段を降りてくる。
慶夫「どうした?」
秀夫「大丈夫。大丈夫」
 秀夫、手を、振る。
 
63 並木路(朝)
  たくさんの女性が、歩いている。
64 四つ角
  女性たちが、曲がっていく
64 パソコン経理学校前
  楯看板
 「独立行政法人 雇用・能力開発センター主催
  パソコンEXCEL・WORD3ヶ月講座
  CAD・建築設計図3ヶ月講座
  経理事務課3ヶ月講座
  合同入学式」
  女性たちが、スリッパに、履き替えて、
  パソコン経理学校の中に、入っていく。
  
  風水羅盤。
慶夫(N)「家からこの学校の方位は、真東、同の方位です。
 困難や危険が、乗り越えられ、協調性が、高まり、
 相思相愛、お互い尊敬できる友好的な関係が、結ばれるそうです。
65 パソコン経理学校の階段
  女性たちが、階段を、登っていく。
  風水羅盤。
慶夫(N)「恋愛面は、階段を、登るように発展し、
 やがて、結婚に、たどり着くでしょうだって。
 ただ、事件や他人のもめ事に、巻き込まれることも、
 多くあり、注意が、必要だそうです」

66 入学式会場(3階)
  超満員。
67 屋上
  澄み切った青空。
  遠くに、山々が、見える。
  一人の男が、屋上の柵を、乗り越えようとしている。
68 入学式会場
  拍手。
姫井理事長(男)「ありがとうございました。
 雇用センター事務局長に、スキルアップと進路について、
 承りました。次は、当本校の理事長、と言っても、
 理事長、私なんです。梶山君、どこ、行ったの?」
  村井事務職員(女)、手を振る。
姫井理事長「ちょっと、急いで、探してきて」
  村井事務職員、ドアから出て行く。
  生徒たち、ざわつく。
姫井理事長「まったく」   
  姫井理事長(男)が、演壇に、上がる。
69 屋上
  男が、外壁の上に、上がる。
  セスナ機が、拡声器で、
  スーパーマーケット大売出しの宣伝を、している。
70 入学式会場
  セスナ機の宣伝が、聞こえる。
  姫井理事長、天井から、窓を、見る。
  セスナ機の宣伝が、小さくなっていく。
姫井理事長「本校の理事長、姫井でございます。
 昨今、景気回復と言われておりますが、
 まだまだ、失業率は、減少しましても、
 完全失業者数は、平成11年より300万人を、
 超えておりまして、率にしまして、
 5%前後を、推移しております。
 若年層につきましては、ニートと呼ばれ、
 学校にも、仕事にも就かない若者が、
 50万人とも100万人とも言われ、
 年々増加の傾向にあります。
 本校では、職業訓練学校として、
 経理課、CAD設計図課、WORD・EXCELのマクロデータベース課の
 3課を開講し、3ヶ月、学習していただきます。
 就職率は、90%以上の数値を、
 挙げていますが、中には、希望する会社とマッチングしない方も、
 おられます。特に、経理課です」

  座っている生徒たちが、ざわつく。
  後ろの席の方から、話し出す。
女性受講者1「理事長、ベンツ、乗ってるんだって?」
女性受講者2「家は、豪邸?」
女性受講者3「庭付き」
女性受講者2「本当?ちょっと、ちょっと、理事長、ベンツ、
 乗ってるんだって」
女性受講者3「なになに、ベンツ。OK。
 若い女と連れてるって?」
女性受講者2「そうそう」
女性受講者4「ベンツで、若い女。家は、豪邸」
女性受講者5「ベンツで、若い女。毎日、新地で、飲んでる」
女性受講者6「若い女と、ホテルに行った」
女性受講者7「誰?」
女性受講者6「理事長」
女性受講者7「理事長が、若い女と、ホテルに行った。それで?」
女性受講者6「奥さんと別居」
女性受講者8「理事長、浮気して、奥さんと別居」
女性受講者9「やるわね。理事長、浮気して、奥さんと別居」
女性受講者10「理事長、浮気して、奥さんと別れた」
女性受講者11「再婚して、子供つくった」
女性受講者12「できちゃった結婚
女性受講者13「理事長、できちゃった結婚
  一番前に、座っていた秀夫にも、話が、伝わってくる。
秀夫「なに?」
女性受講者14「理事長、できちゃった結婚
女性受講者15「こっち、見てる」
  演壇上から姫井理事長、秀夫に、注意する。
姫井理事長「君、静かにしなさい」
  秀夫、右手を挙げて、立ち上がる。
秀夫「できちゃった結婚ですか?」
  姫井理事長、秀夫を、じっと見る。
  秀夫も、姫井理事長を、じっと見る。
  姫井理事長、しかめっ面の後、ふと、うなずいて、
  笑みを、うかべる。
姫井理事長「(両手で促しながら)すわってください」
  突然、村井事務職員が、入りこんで来る。
村井事務職員「たいへんです」

  村井事務職員、演壇に上がろうとして、
  縁に、つまずく。
  姫井理事長に、ぶつかる。
  村井事務職員と姫井理事長が、抱きつくように、
  倒れる。
姫井理事長「なに、してんの?」
村井事務職員「たいへんなんです。梶山先生が、
 屋上から、飛び降りようとしてるんです」
姫井理事長「なに?」
村井事務職員「梶山先生が、屋上から、飛び降りようとしてるんです」
姫井理事長「声が、大きい」
  二人、見つめ合う。
  受講生たちが、二人を、覗き見ている。
姫井理事長「本当かね?」
村井事務職員「わたくしは、うそは、申しません」
姫井理事長「重い」
村井事務職員「これは、失礼をば」
  二人、立ち上がる。
姫井理事長「警察、連絡した?」
村井事務職員「はい」
姫井理事長「しちゃだめだろう。事件になってないのに」
  姫井理事長は、ざわついている女性受講生の中で、
  先程まで、立っていた秀夫が、いないことに、気づく。

71 屋上
  秀夫、階段の踊り場から、屋上を、
  覗きこむ。
  後ろ姿の梶山先生が、ベンチにすわり、足を組んで、
  山を見ながら、たばこを、吸っている。
  秀夫、勘違いとわかり、静かに、
  階段を、降りて行く。
  梶山先生、神経質に、スパスパと、たばこを、吸う。
72 入学式会場
  秀夫、入ってくる。
女性受講者1「見てきたの?」
秀夫「違う。違う。屋上で、たばこ吸うてる。
 飛び降りと違う」
姫井理事長「なんだ。驚かすなよ。呼んできて」
村井事務職員「私が、見た時は、危なかったんですよ」
  屋上から梶山先生の声が、聞こえる。
 「たすけてくれ」
  場内、静まる。
  外側の窓の上で、梶山先生の足が、ぶらぶらしている。
女性受講者2「あれ、あれ」
村井事務職員「梶山先生」
  外側の窓から、体を乗り出して、上を、見る。
  女性受講者たちも、体を、外に、乗り出して、
  上を、見る。
梶山先生「たすけてくれ」
  屋上の外壁に、ぶら下がって、足を、
  ぶらぶらさせている。  
  
  またもや、座っていた秀夫が、いない。
  開かれた扉。
男性受講生1「屋上だ」
男性受講生2「屋上。屋上」
男性受講生3「急げ」
  受講生たちや村井事務職員が、入学式会場から、飛び出し、
  屋上へ、向かう。
  姫井理事長、演壇に、残る。
73 屋上
  秀夫が、外壁に、ぶら下がっている梶山先生を、
  引き上げている。
  屋上に上がって来たたくさんの受講生たち。
 「引っ張れ」
  下の入学式会場の窓から、身を、乗り出して、
女性受講生1が、叫んでいる。
 「引っ張れ」
村井事務職員「みんなで、引っ張れ」
  秀夫、梶山先生を、引き上げる。
村井事務職員「先生」
  秀夫、校舎の玄関前で、
  ひとり、屋上を見上げている姫井理事長に、気づく。
  玄関前の姫井理事長が、
  屋上の秀夫と目が、合って、驚く。
秀夫「あの野郎」
  姫井理事長、逃げるように、背を向けて、
  街路の方へ、歩いていく。    
    
74 階段1
  秀夫が、飛ぶように、階段を、降りて行く。
75 階段2
  誰も、いない。
  秀夫の降りて行く足跡が、鳴り響く。
76 入学式会場
  窓から女性受講生が、歩き去る姫井理事長と
  追いかける秀夫を、見て、驚く。
77 街路
秀夫「待て」
姫井理事長「ひぇー」
  姫井理事長、悲鳴をあげて、逃げる。
  四つ角を、曲がって、走り逃げる。
  追いかける秀夫。
  ラグビー・タックル。
  秀夫、姫井理事長に、飛びつく。
  姫井理事長、倒れる。
姫井理事長「わかった。わかった。降参。行く。行く」
通行人(男)「警察、呼びましょうか?」
秀夫「大丈夫です。取り押さえましたから」
    
  秀夫、姫井理事長の上着の首根っこを、
  吊り上げる。
姫井理事長「やめろ。なんだね、君。
 行きゃいんだろ。行きゃ」
  秀夫、また、姫井理事長の上着の首根っこを、
  持とうとするが、左腕で、払いのけられる。
  秀夫、通行人に、愛想笑い。
78 入学式会場
  誰も、いない。
  窓が、開かれたまま。
  カーテンが、風で、なびく。
79 屋上
  姫井理事長が、正座して、梶山先生に、謝っている。
姫井理事長「すまん。許してくれ」
梶山先生「今さら、許してくれはないだろう」
女性受講生1「なにしたの?」
女性受講生2「奥さんでも、盗んだんじゃない?」
秀夫「やばいね」
  梶山先生が、また、柵を、乗り越えて、外壁から、
  飛び降りようとする。
秀夫「待て」
梶山先生「離してくれ」
秀夫「話を、聞かしてくれ。何が、あったんだ?」
梶山先生「人に、言えるか」
  梶山先生の柵越えを、姫井理事長も、止めに入り、
  3人、もみ合う。
  梶山先生、姫井理事長に、引き倒されて、
  床に、うつ伏せになる。
梶山先生「ワー」
  梶山先生、突然、大声で、泣き出す。
  秀夫、こぶしを振り上げて、
  姫井理事長の顔面を、殴る。
  鼻から、血が、噴出す。
  姫井理事長、鼻を、おさえて、
  うつ伏せにうずくまる。
  パトカーと救急車と消防車のサイレンの音。
80 パソコン経理学校前
  パトカーと救急車と消防車、到着。
81 パソコン経理学校(夕方)
  屋上。
  外壁。
  3階。窓が、閉まっている。
  2階。
  1階。
  入学式の看板。
  救急車の前で、鼻をおさえた姫井理事長が、
  警察官と話している。
  秀夫と梶山先生が、横で、聞いている。
  姫井理事長が、救急車に、乗り込む。
  残った秀夫と梶山先生が、警察官に、
  頭を下げている。
 
82 下駄箱前
  パトカーのランプが、回っている。
男性受講者1「えらい入学式だったなあ」
男性受講者2「奇々怪々だね」
男性受講者1「ショートコントみたいだ」
男性受講者2「ショートコント?(含み笑いながら)
 これから、始まるんだぜ」
83 経理課教室
  鶴見宏経理担当先生(61)が、一生懸命、黒板に、経理仕訳を、
  書いている。
  黒板に、チョークが、当たる音。
  鶴見先生、背が、低く、やせて、頭が、はげている。
  コッ。コッ。コッ。コッ。コッ。
  チョークの音が、鳴り響く。
  鶴見先生、黒板に、向かって、受講生のことを、
  気にかけず、一生懸命、チョークで、書いている。
  コッ。コッ。コッ。コッ。コッ。
  鶴見先生に負けじと、女性受講生が、黒板を、
  見ながら、ノートに、書いている。
  鉛筆を、握るこぶし。
  女性受講生も、一生懸命、書いている。
  書くこと、競争しているみたいだ。
  女性受講生18名。男性受講生3名。
  秀夫が、真ん中あたりの席で、
  自分の書いたノートを、見ている。
  鶴見先生が、黒板に書いているチョークの音、続く。
  黒ボールペンで、簿記3級2級、経理会計、
  損益分岐点などのことが、ぎっしり、
  書かれてある。
  秀夫、ページを、めくる。
  次のページも、一面に、黒ボールペンで、
  経理のことが、書かれてある。
  ページを、めくる。
  次のページも、ぎっしり、一面に、
  書かれてある。
  次のページも、次のページも、次のページも、
  書かれてある。