16 道頓堀・中座(昼・晴れ)
人生幸太朗(73)と善子(67)が漫才している。
幸太朗「こう見えても、いろいろなもんに手出すの好きだ」
善子「一丁噛みやな」
幸太朗「俳句短歌浪曲詩吟小唄カラオケフォークギタートランペットサックスフルート」
善子「何一つ達成してへんな。何をしてもへた」
幸太朗「そんな私で、最近これだけは、我慢できないことがありまんねん」
善子「どんなことでしょうか?」
幸太朗「アイドルやブリッ子や言われてまんな。ミニスカート着ているピチピチ女の子。唄っている歌の歌詞が、(耳押さえながら)もう恥ずかしいて、聴いてられへん」
善子「お年寄りが、お恥ずかしがってどないすの?」
幸太朗「まあ、聞いてください。あなたに、わたしの一番大切なものをあげるわ。一番大切なものって何?お嬢ちゃん、おじちゃんにもくれるの?いらんわ。虫唾が走るわ。あああ、背中こそば」
善子「それで、売ってはるんや」
幸太朗「2番目は、みなさご存知大ヒットしたあの歌。目を閉じて何も見えず。目を閉じて、何が見えますか?お目目ちゃんを、はっきり開けなくちゃ、何も見・え・ま・せ・ん」
善子「そやね」
幸太朗「三つ目。私もね、我慢強いです」
善子「どこがや」
幸太朗「我慢して我慢して我慢してここまでやって来ました。血と汗と涙の結晶です。さがしものは何ですか?見つけにくいものですか?かばんの中も机の中も探したけれどみつからないのに、それより僕と踊りませんか?今の子は、すぐ踊り出します。踊るの阿波踊りだけにしとけ。踊る阿呆に見る阿呆どうせ阿呆なら踊らにゃそんそん。
善子「なに踊ってんねん。ええ歳こいたオッサン」
幸太朗「踊るだけなら私も許します。そのあと。ウフウッフ。ウフウッフ。夢の中へ行ってみたいとおもいませんか?ウフウッフ。ウフウッフ。夢見るのに、ウフウッフ言わな見れんか。腹立つ。私なんか若い女の子の夢、自然と見てます」
善子「おい。誰や」
幸太朗「ごめんちゃい。誰か知らんねん」
善子「嘘つけ」
幸太朗「勘忍。許して」
善子「許さん」
幸太朗「許して」
善子「許さん」
幸太朗「お願い。許して。ごめんちゃい」
善子「絶対。許しません」
幸太朗「相方もこう申し上げております。許してあげてください。みなさん」
観客、拍手喝采。
幸太朗「ありがとうございます」
善子「ありがとうございます」笑顔。
幸太朗「ありがとうございます。もう来るな。やめてしまえのお言葉もなく、御拝聴頂きまして、ありがとうございます。その我慢、これからのお客様の人生に、何かしらのお役に立つことを心から心から心からお祈りして、人生幸太郎善子漫才これにて終わられて頂きます。ありがとうございました」
二人、一礼。
拍手喝采。