道頓堀シナリオ 1

1 大阪は、橋の街。(遠景)
   少年一人と少女一人が、
橋の上を走り踊る。
   春の桜。都島橋天満橋大江橋など。
   夏の海。豊里大橋南港大橋なみはや大橋わかめ大橋千本眼鏡橋関空大橋など。
   秋の紅葉狩り箕面大橋多田大橋ときわ台大橋など。
   冬の雪。菅原大橋戎橋住吉大社太鼓橋大阪城大橋など。
   少年と少女、お互い走って来てグルグル回って抱き合う。

   グリコのネオンが、壊れている。ネオンが、点いたり消えたりしている。
   船に乗った男二人の電気工事修理人来る。

3 道頓堀たこ焼き屋(昼)
   李相三(87)が、たこ焼きを焼いている。
   手が震えている。
   若いアベック客が、心配そうに見ている。
「大丈夫ですか?」
李相三、チラッと睨んで、何も言わずたこ焼きを焼く。

4 道頓堀たこ焼き屋内(夜)
李相三(87)仕事着のまま、一人座っている。
李相三「もう見えないなあ。耳も聞こえない。手も震える。道頓堀は、終わりだ。誰も来ない。錆びれた街道頓堀。漫才師や落語家が、食べに来て、キャーキャー黄色い悲鳴。人気者やね。たこ焼きより漫才師になりたかった。韓国から密航やから、日本語が下手で、とうきょうとっきょときゃきょく。早口言葉ばかり練習してました。赤パジャマ青パジャマ黄パジャマ。隣の客はよく柿食う客だ。死ぬ前にまた、会いたいなあ」

  グリコネオンが、故障して火花を散らしている。
電気工事の船からハシゴを登って、工事人が、グリコネオンを修理する。

年寄り李相三が、携帯電話している。
「もしもし、もしもし、お父さん?お腹すいた?ぼくね、お腹すいた?お父さん?お父さん?もしもし、もしもし、ぼく、寂しいの。なに言うてんねん。たこ焼き屋サンサン。お父さん?違う。サンサン。たこ焼き屋サンサン。さんぱつ?サンサン。なに?
お腹すいた?お父さん?
たこ焼き食べて。タ、コ、ヤ、キ。おいしいよう。もしもし、お父さん。もしもし、お父さん。たこ焼きおいしいよう。いっしょに、いっしょに食べようねえ。
はあい。お待ちしてます。
(立ち上がって最敬礼)ありがとうございます。
涙ちょちょ切れるわ」
携帯電話、切る。